東京の弁護士の中里です。
私が、交通事故案件を集中的に取り扱うようになってから、長い年数が経ちました。
長い年数、交通事故担当をしていると、保険会社の担当とも、顔見知りみたいな感じになってきます。
実際は、電話や書面でやりとりするだけで、対面はしないので、顔は知りません。
また、あの担当者だと分かると、前回のやりとりの感覚を何となく思い出し、前回かなりうまくいったから、今回もきっちり賠償してもらえるだろうなという感覚でいつも交渉しています。
さて、今回は、「60代女性、一人暮らしでパート」をされていた方が交通事故でお亡くなりになった件での解決実績のご紹介です。
※死亡案件については、これまで数多く扱ってきましたが、全ての解決実績をご紹介できているわけではございませんので、ご了承ください。
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詳細な事情や賠償金額等は、個人情報保護の観点から適宜、捨象、修正してご紹介します。
被害者:60代女性、一人暮らし、パート
死傷結果:死亡
当方過失:0%(←本来10%)
総賠償額:約4500万円(内自賠責保険金3000万円含む)
※基礎収入:約100万円(パート収入)
示談・訴訟の別:示談
※仮に、年齢がもっと若くて、基礎収入がもっと高い方の場合、賠償金はあと数千万円は上乗せされます。
【事故態様】
当方が、原付バイクで優先道路を直進中、左側から自動車が突っ込んできて、原付バイクもろとも被害者を転倒させ、被害者を死亡させたという事故でした。
この場合の基本過失割合は、
原付バイク10%:自動車90%(別冊判例タイムズNo.38【171】)
となります。
ですが、示談交渉の結果、当方の過失を0%でまとめることに成功しました。
とある裁判例の趣旨をもとに交渉した結果うまくいきました。
示談段階で、過失を当方有利に相手方が修正してくれるケースはそこまで多くはないですし、私は、「死亡案件はいつも訴訟になる」と割り切っていたのですが、何とか、示談交渉でうまくいきました。
【逸失利益】
被害者の方は、60代の女性でしたが、一人暮らしであったため、家事従事者としての主婦の主張はできませんでした。
もし、他の家族と同居されていて、その家庭の家事労働をメインで担当していれば、基礎収入が約394万円(R4賃金センサス女性・学歴計・年齢計)と主張できたのですが、一人暮らしですと、他人のために家事をしていないということで、実際に自分が働いている分のパート収入(今回は、約100万円)でしか、基礎収入は主張できませんでした。
もし、家事従事者として賠償を受けることができていたら、あと2000万円は賠償金が増えていたと思います。
ですが、示談段階でも、パート就労分、年金分の逸失利益は、平均余命の2分の1(就労分),平均余命年数(年金分)、生活費控除率もそれぞれ30%、40%と、こちらが請求した金額どおりで示談はまとまりました。
【死亡慰謝料近親者慰謝料】
2640万円でまとめることができました。
交通事故賠償の実務本には、死亡慰謝料は近親者慰謝料も含めて、母親等は上限2500万円と記載されていることにかんがみれば、これもかなりうまくいった金額となります。
【葬儀費用】
裁判基準ですと、上限150万円なのですが、実際にかかった費用約200万円を請求したところ、請求金額どおりで示談に応じてもらうことに成功しました。
これも異例なことです。
【総括】
死亡案件は、通常、示談段階では、訴訟基準の満額の金額で賠償案を提示してくれることはなく、いつも訴訟をしてきっちりと訴訟基準満額を勝ち取るという解決をしてきました。
今回の、示談段階の相手方保険会社からの私の予想回答金額は、せいぜい3700万円(自賠責保険金込みでの金額)くらいだろうと予想していたのですが、示談段階で、ほぼこちらの請求どおりの金額で示談に応じてもらうことができました。
一番驚いたのは、過失は当方10%から動かないだろう(訴訟しても当方の過失が0%になる可能性はそこまで高くないだろうと予測)と予測していたのですが、当方の過失を0%にしてもらえたことはうれしい解決でした。
示談での解決を蹴って、訴訟まですれば、遅延損害金、弁護士費用、さらなる近親者慰謝料の上積みも期待できたのですが、過失が0%で維持される保証がなかった以上、依頼者の方たちと協議して、リスクをとることは避ける形で、早期解決を優先して、示談でまとめることにしました。
示談交渉期間は、1ヶ月強であったため、比較的早期に解決できた案件でした。